視床下部
視床下部
先日治良中に「視床下部ってなんですか?」と聞かれました。
「あーそれはですねえ・・」と一通りの説明をしたのは良いのですが、治良が終わってはたと「あんまり詳しく知らないな・・・・」と思い勉強しなおし。
以下あくまで自分の勉強のために書いてみます。
視床下部の働きは一言で言うと「恒常性の維持」となります。
恒常性=ホメオスタシスは有名な言葉ですが、「生存のために生体内部の環境を一定の範囲に収めておくための反応」というのが詳しい定義となります。
私たちの体は常に様々な変動、気温、気圧、湿度、物理的負荷、内部における化学的ポテンシャルなどの変化、にさらされています。
これらの変動にいちいち振り回されていると、あっという間に生命維持がおぼつかなくなります。
そこで変動に対して意識せずとも適正範囲内で補正を行い、パラメータひいては生体全体の安定を計るためのシステムの、最重要中枢と言えるのが視床下部です。
実際、自律神経系、内分泌系における統制はこの視床下部抜きでは語ることができません。
その働きをざっとみてみると
・循環血温度
・浸透圧
・血糖値
・酸/塩基平衡
・ホルモン濃度
などを常時監視しています。
また、延髄孤束核をとおして内臓筋(平滑筋)や体液の物理/化学的状態に関するデータを受け取り、やはり監視下においています。
さらに中脳網様体からは覚醒レベルに関する情報をうけとるなど、複雑な脳内シナプスのハブになっています。
これらの情報を適宜処理し、自律神経系、内分泌系、循環器系などを介して内部環境の安定化を行うわけです。
かように多数の神経核、シナプスを有する視床下部ですが、もう少し具体的にその働きをみてみましょう。
視床下部は間脳と呼ばれる部位のほぼ底部に位置し、その下に脳下垂体をぶら下げるような形になっています。
外側部には有名な「摂食中枢」があります。
ここの問題は食欲不振や口渇感欠如という症状を引き起こします。
また内分泌系に対して多大な影響力を持っており、とくに室傍核や視索上核は下垂体後葉に直接つながっています。
ここで分泌されたホルモンは、後葉を介して標的臓器に影響します。
視索上核は血液の浸透圧も監視しており、浸透圧が水分不足によって上昇すると腎臓の尿細管から水分の再吸収を促すためにバソプレッシンが放出されます。
これらは下垂体後葉と直接シナプスしていて、神経性下垂体とも呼ばれます。
これに対し下垂体のうち、前葉部分は腺性下垂体と呼ばれ、発生学的にも後葉とは異なりますが、二つは密接に関連しています。
この前葉に対して視床下部は制御因子を分泌し、コントロールしています。
前葉から放出されるホルモンは以下の通り。
・副腎皮質刺激ホルモン
・黄体形成ホルモン
・卵胞刺激ホルモン
・甲状腺刺激ホルモン
・成長ホルモン
・プロラクチン
これらは基本的にフィードバック機構によって調整されますが、それは常に血中の因子を監視しているからこそ可能となる反応です。
治良屋の立場でいうならば、まず自律神経系の高位中枢という側面に注目します。
延髄孤束核経由で送られる平滑筋、体液のデータは、同核を知覚中継点とする迷走神経、舌咽神経、副神経のデータとリンクしやすい、あるいはその可能性を示唆しています。
この解剖学的な事実は、視床下部が内臓の機械的緊張だけでなく、外分泌腺、血液性状を含めて総合的なコントロールの一端を担っていることを示します。
また血圧を調整する器官(頸動脈洞)も舌咽神経支配ですから、血管の収縮をコントロールする脊髄側柱由来の交感神経細胞ともシナプスが(間接的にしろ)あるとみるのが妥当です。
当然腺性下垂体の働きも視床下部だよりとなれば、各種制御ホルモンと自律神経系の反応も自ずと関連づけやすくなります。
これらの解剖、機能的側面を知っておくだけで、手技的なアプローチが各種パラメータに及ぼす影響がイメージしやすくなります。
下垂体は蝶形骨トルコ鞍という部分にある、海綿静脈洞という膜組織に周囲を囲まれています。
ここで脳脊髄液をふくめ体液に覆われているのが下垂体という組織で、非圧縮性である液体の排液が滞れば下垂体界面部分の圧迫に始まり、実質部分そして内部を走る門脈系にまで影響が及びます。
これの意味するところは視床下部へのネガティブフィードバック、あるいは視床下部で自発的に起きるフィードフォワードによる周辺組織への影響です。
ちなみにフィードバック、フィードフォワードは「味見をしながら少しずつ調味料や材料を加減する料理」と「最初から規定の材料、調味料、火加減によって作る料理」にたとえられます。
いつも通り“特定の病理変性などがない機能問題”に限りますが、頚静脈孔における排液の効率化を促すだけでも、この部位における困った反応および影響下にある制御問題を収束方向へ誘導させることが可能になります。
このことは「頚静脈孔における内頸静脈上球(頚静脈孔内での静脈の膨らみで他の静脈も合流している)の逆圧が各エリアに間接的な不利益をもたらし、かつ下部脳神経に物理的な圧迫負荷をかけうる構造であるが故に、副交感神経系をはじめとした支配下組織からの様々な問題を起こしうる」可能性を示唆しています。
また、海綿静脈洞はその構造上、小脳天幕前後脚に影響を受けやすく、それはすなわち後頭骨および側頭骨の動向に敏感であるということにもなります。
解剖学的にもっとも近接し、後頭環椎顆=後頭骨に影響しうるのが外側頭直筋と後頭環椎関節の関節包です。
外側頭直筋は後頭骨頸静脈突起と第一頚椎外側を結ぶ筋肉で、片側の緊張はその方向への側屈(sidebend)を起こします。
支配神経は第一系神経(第一頚椎と後頭骨の間から出る神経)。
関節包は左右にあり、少しいびつな形の間接面を頚部筋膜にくっつくように覆っています。
以上のことを鑑み、我々が無理なく安全にアプローチできる「視床下部および下垂体の問題と思われるケースに対する処置」として以下の方法を提唱します。
それは立位や座位でも可能ですが、ベッドの上で仰臥位にして,被験者が感じるか感じない程度の力で頭部から足部へ向けて圧をかけます。
上記の二つの組織はまれに別のベクトル、つまり別の原因で緊張が起きていることもありますが、大抵はよく観察すると二つの組織がいっぺんに弛緩する頭部ポジションが見つかります。
圧をかけることでこのポジションへの誘導が始まります。
そのポジションを維持していると徐々に手に伝わる感触が柔らかいものになるのを感じるはずです。
この弛緩反応が起きると、その直前にある椎前の筋膜および頚静脈孔を形作る後頭骨と側頭骨の三次元的アライメントが同時に好ましい状態へ誘導されます。
弛緩が起きてしばらくはそのまま様子を見ます。
その後、頭が手を押し返すように弾力が発生します。
発生したら手を離しましょう。
直前に検査した状態と比べてください。
様々なパラメータに変化が起きている、はずです。
「はず」というのは頸静脈の逆圧が問題の中心では無い場合もあるからです。
数回に分けて施術しても変化が無い場合は、詳細なメディカルチェックをすすめるべきです。
少し練習が必要かもしれませんが、慣れるととても便利な方法と言えます。