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扁桃体

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扁桃体

最近、立て続けにPTSD(心的外傷後ストレス障害)と思われる問題に接する機会がありました。
これが脳全体の統合的な反応であることは言うまでもありませんが、恐怖を核としたこの問題の中心的な役割を演じる部位が扁桃体です。

教科書によっては大脳基底核に分類しますが、多くの場合大脳辺縁系の一部であるとしています。
ここは広い意味での嗅脳系であり、嗅索や嗅球からの入力を受けていて、大脳辺縁系の定義に当てはまっています。
ちなみに辺縁系limbic systemという言葉は、主に脳幹周辺にあるということに由来し、辺縁系を構成する構造はすべて視床下部へ投射する繊維を出しています。

扁桃体はアーモンド形の神経核で、視床下部のすぐ近くに位置しています。
大脳新皮質連合野からの入力を受け、自身の経験に付随する情動や、社会的な意味を持つ経験に対する反応の中心であると考えらえています。

また苦痛、恐怖を伴う学習効果はこの神経核に依存し、「痛い目にあって覚える」は扁桃体が必要不可欠になります。

さてでは、苦痛を取り除くあるいは恐怖からくる不安などのストレス背景は、扁桃体のみを問題にすれば解決しうるのか。
現時点では明確な答えを出すことは、私にはできません。

なので恐怖や不安をもうすこし微分し、そこから考えてみようと思います。

ここで少し(自分のための)復習を。
以前報酬系のことを少し書きました。
中脳腹側被蓋野から出るA10という神経はドーパミン分泌を行います。
これが伸びる先は

前頭連合野
扁桃体
側坐核
帯状回
海馬
黒質
線条体

があります。

中脳腹側被蓋野(VTA)はまず前頭連合野から興奮性の(グルタミン酸による)入力信号を受け取ります。
VTAは前頭連合野によってエンジンがかかる、ということになります(それ以外外の経路もあります)。
また側坐核(ここは大脳基底核の一部を形成しています)も入力信号を送りますが、こちらは抑制性の信号(GABAによる)であり、VTAの行き過ぎにブレーキを掛けます。

報酬系はその特性がいわゆる「達成感を主にした快感」を感じさせるものであることから、扁桃体とは対立するかのような印象を与えがちですが、上記のようにA10神経を扁桃体に送り、そのフィードバックの一部をドーパミンやセロトニンの分泌トリガーとしていることからもわかるように、必ずしもカウンターシステムの側面ばかりではありません。
それどころか扁桃体と報酬系は不可分なシステムを形成しているとみるべきであり、それぞれ単独では語ることのできない機能を担っているといえるでしょう。

さて問題の扁桃体ですが、少し詳しく構造を見てみます。

・基底外側核
領域としては最も大きく、感覚情報を側頭葉などの高次感覚性皮質/連合野から受け、前頭前野、側頭葉、帯状回などの大脳皮質に出力する。
情動(過去の経験や記憶に対する脳の反応)に対して、どのくらい不安が生じ、あるいはそれが減衰されるかを軸に評価意味づけをし、行動を起こす際の動機づけに影響している。

・中心核

延髄孤束核から内臓の固有感覚情報を受け取り、迷走神経背側核などに出力線維を送る。
これにより情動に連動した内臓機能の一端が決定される。

・皮質内側核

嗅球からの嗅覚情報を受け、これを視床下部に出力する。
主に性刺激に関する反応に関与すると考えられている。

これらがほかの神経核とも複雑なネットワークを作り、生存競争に欠かせない「恐怖」を演出していますが、そもそも恐怖とは何ぞやという疑問が残ります。

また少し脱線しますが、”恐怖””不安”といった感情の構造について。

これらは通常 恐怖→不安の順におきます。
生存もしくはこれに準ずる状況を維持する上で不利なシチュエーションが発生すると、私たちは反射的にこれを回避しようとします。
なんといっても生き物の第一義は「死にたくない」であり、生存を脅かされるのが最も困るのです。
その回避には全身全霊で取り組む必要があり、その起爆剤が恐怖なのです。

脳内ではノルアドレナリンをはじめとしたモノアミン系が大量に分泌され、抑制的に働くセロトニンを一時的に圧倒します。
また脳幹網様体から入力される全身の交感神経の緊張状態はヒートアップに拍車をかけます。
このようにしてともあれ脳内に吹き荒れる嵐に対応するためにあれこれ考えたり行動したりするのですが、ここで完全に払しょくできれば「安心」が訪れます。
ですが、たいていは厄介さを残し収束させ、その結果「不安」が発生します。
これは別の言い方をするなら「その先の展開が読めない」がゆえのアラートであり、恐怖と地続きな感情ということができます。

これらの脳内変化の結果生じた感情である恐怖不安が私たちを防衛してくれることは疑いようのない事実です。
問題はこれが行き過ぎた結果、なかなか収束せず理性的かつ合理的な最適解を出せなくなってしまうことです。
いわゆる脳幹(正確には間脳の一部)に支配された状態というやつで、長引けば血圧血糖値上昇をはじめとした生理的緊急状態を常態化させ、病理にまで発展させる危険性が出てきます。
当然状況の把握が偏る傾向が出現し、現実との整合性が低い判断を下しがちになります。

また恐怖不安を抱えたままで生活してゆくことは、いわゆるストレス状態に過剰適応してしまう結果を招き、次のような変化を組織に引き起こしえます。

・微小血管の狭小
同時に代謝系はホメオスタシスの維持に忙しく、コラーゲンの合成がおろそかになり、血管外皮はその新生が阻害され、古いコラーゲン同士が分子レベルでより強く結びついて(架橋して)しのごうとします。
内皮においてはエラスチンの供給遅れが発生し、その構造的特性から内皮自体が収縮し、血中資質の変化に影響を受けやすくなると考えられます。
つまり血管が狭く硬くなり、しかも回復の機会が少なくなる結果、細動脈しか栄養経路がない組織はすぐに硬くなり始めます。
また低栄養低酸素状態は、必然的にポリモーダル受容器の閾値を低下させますので、通常感知しえないレベルの刺激を痛み刺激として送信することになります。

中枢感作
セロトニンは脳幹”橋”の縫線核という部位で主に作られ、広汎な投射でさまざまな制御にとって重要な働きをする伝達物質です。
セロトニンは当然扁桃体にも線維を伸ばし、内部反応の亢進を緩和する働きがあり、これが抗不安作用としてシステムに干渉します。
これを相対的に減少させるストレス反応は、不安→恐怖へとシフトする反応を誘導しやすく、痛みの増大に一役買うことになります。
また中脳中心灰白質から起きる刺激は、縫線核→脊髄後核へ投射線維を通して侵害受容ニューロンの抑制を行います。
この機能も低下を起こしますので、脊髄後核レベルでも痛みを増大させるような疑似変性を引き起こすきっかけとなりえます。

これらは短期的には痛みを、長期的には病理変性を招くリスクを増大させ、はっきりと確認しづらい変化をもたらし続けると推測されます。

日本人の場合、中枢神経系におけるセロトニン輸送体が遺伝的な理由で小さいあるいは機能的な弱さを抱えやすいといわれており、扁桃体に対する抑制作用も損なわれやすいとみられています。
極論すると「痛みを感じやすく、それによる消耗状態を招きやすい」のが私たちなのかもしれません。

もちろん単純にセロトニンやドーパミンを投与すればよい、などという話ではありません。
たぶん実施してもほとんど意味を成しませんし、レセプターが少なくかつ分解処理が落ちている状態ではリスクが上がるばかりだというのが真相でしょう。

扁桃体は本能的行動背景に大きく影響する神経核である。
そしてそれは不安だけではなく、広汎なエリアからの入力を受け入れ、同時に投射による影響を及ぼしている。
ここが理想的な状況で機能するためには、脳内の環境だけではなく、内臓機能をはじめとした各器官のスムースな反応による体全体の”正しい”運営が必要となることは疑う余地がありません。

治良という、少し説明が難しい方法論がある一定の効果を上げ続ける理由の一つが、この神経核への影響なのかもしれない。
そのように考えます。

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