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ポリヴェーガル理論

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ポリヴェーガル理論

ポリヴェーガル理論

最近読んだ中でもっとも面白いと感じた本がこちらでした。

ヴェーガルというのは「迷走神経」のことで、自律神経系のうち、副交感神経線維の主な経路となっている脳神経のことです。
ポリは「多数の」意であり、複数の迷走神経理論、と言うことになるでしょうか。

私たちは自律神経系

・交感神経系
・副交感神経系

から構成されていると習いました。
前者は車で言えばアクセルであり、エネルギー消費を伴う反応に関与しています。
後者はブレーキ、それもエネルギー回収を行う回生ブレーキ的な機能を持っています。

前者が体を緊張させ、エネルギー消費方向に導き、長期にわたる応答性持続が問題を引き起こすとされています。
後者はこれを宥め、エネルギーを回収し、調和的に作用するシステムであるとされています。

しかし上記の本によれば、これだけでは説明のつかない反応や問題が多数あるというわけです。

これは私の解剖学の教科書には載っていないことであり、それ以外のソースによる確認は取れていないことですが、なんと副交感神経系には2つの種類があるようなのです。
1つは私も知っている副交感神経系で、同時にこれは有髄(神経に鞘がついている)であり、発生学的に見れば新しいシステムであるとしています。
またこのシステムは主に横隔膜から上のエリアをコントロールしており、顔面神経と起始を同じくしているそうです。

2つ目は無髄であり、発生学的にはごく原始的な神経システムであるとされています。
主に横隔膜から下の領域を支配しつつ、エネルギー消費を最小限に抑えるように設えられていると著者は書いています。

1つめの有髄迷走神経系は上記にあるような「体の状態を一定に保つために、交感神経系の反応を適正レベルに調節する」という機能を持っています。
体内外の様々な変動に対する強制的な反射を宥め、適切なレベルになるよう誘導し、エネルギー回収を行うための同調反応を司っています。
私たちが怒り狂っても、食べすぎても、寝不足になってもいつの間にか元に戻っているのは、主にこれが指揮を執ってくれているからと言うことになります(はしょりすぎですが)。

2つ目の無髄迷走神経系は、著者曰く爬虫類以下の進化レベルに見られるシステムであるとしています。
進化的に下意の動物が外気温が下がってくるとこれに合わせて冬眠状態になったり、危機的な状況下で動けなくなったりするのもこれらが反射を支配しているからだと書いてあります。

進化を追ってみると、まず無髄の迷走感神経系、次に交感神経系が発達し、最後に有髄の迷走神経が発達したと著者は述べています。
このようなシステムが備わる理由として、自分の安全を確保するためだとも書いています(意訳ですが)。

死から遠ざかるという基本命題を、集団を組んでシステムを安定させ達成しようとする私たち人間は、少なくとも集団内部のメンバーに対して「私は敵ではない」と知らしめておく必要があります。

その伝達方法の一番大きな手段が「顔の表情」であり、これを支配している顔面神経は有髄迷走神経と連動していて、無髄の迷走神経系が優位になっているとあまり働かなくなるとしています。
確かに動けなくなるような時って表情が消えますよね。
それは間違いではないと私も思います。

表情やボディランゲージで「自分の生理状態をアピールする」ことは迷走神経知覚路によって延髄弧束核に届けられる内臓知覚が大きく関わってきます。

言い換えるなら迷走神経の働きが不十分であると、顔面神経系は集団内で的確な反応を出力できないことを意味しています。
顔面神経系が十分に出力を維持できないとき、中耳筋の機能も制限されます。
これは音の帯域に合わせて鼓膜の聴力や耳小骨の動きを適切にコントロールできなくなることでもあります。

ここで少し説明を。
外耳道から鼓膜に届いた振動(音波)は、鼓膜に接続している耳小骨へ伝達されます。
ここから内耳器官、内耳神経に接続し、最終的に脳の聴覚処理領域(側頭部)で音として認識されます。
この耳小骨や鼓膜をコントロールしているのが「中耳筋(と著者は書いています)」で、これは三叉神経および顔面神経に支配されています。

内容を私なりに意訳すると

「本来動物はまず危険を避けるという反射が優位になる。
結果聴覚も外敵の接近を知らせる音(主に重低音)の収集機能が発達する。
しかし集団を組む現代の哺乳類である我々は相手の韻律、言葉を理解する必要から、やや高めの音を収集する必要に迫られている。
結果顔面神経支配の反応が重要になるが、古いシステムが優位の場合はこれが十分に機能しなくなる。
常に重低音にピントの合った聴覚システムは、常に危険を察知(現代社会でもこれは豊富にある)して、緊張を解くことが出来ず、疲労してゆく。
そして「安全ではない」という認識は加速、維持され、ますます高度な社会性を維持するシステムの出番は少なくなる。」

そのように読めました。

私たち哺乳類は、ストレスがかかると反射的に交感神経系による補正が起きます。
システムが健全でかつ余裕があればこれは常に有髄の副交感神経系の「宥め」とセットになって、恒常性の維持に寄与します。

しかしこれら「進化上、より新しい」システムによる介入が上手くいかないとき、あるいは量的質的なオーバーフローが起きたとき、次の反応系として無髄の迷走神経系を防衛ラインとして起動させるとあります。
これは基本的にエネルギーの消費を最小限に抑え、内部の反応、あるいは外敵から身を守ろうとする「不動状態」を作り出します。

これは実際筋の緊張や硬直を作り出し、長引けばそれだけでシステムのスムーズな運営に支障を来す制限を形成してゆきます。
また強度のストレスであれば、たった一回の不動状態が神経系を通して認知に制限を作り、システム内の抵抗値は途方もなく上昇し、記憶が起ち上がるたびに交感神経とのせめぎ合いでパニックになる確率は高くなります。

逆に不動状態による呼吸の制限は反応の鈍化を招くこともあり、これが続けば心身症やうつといった状況に追い込まれることも考えられます。
ただし反応は鈍化でも危険を察知するための知覚はハイパーセンシティブ(過敏)になっていて、聴覚はもとより、視覚も嗅覚も味覚も、はては触覚までもが「外敵察知モード」で待機してしまうことになります。
感覚が敏感になり、危険が迫っていると頭の中でアラートが鳴り響いているのに、対応するための行動や思考が起動できないわけですから、そのストレスたるや想像を絶するものとなっているはずです。
これでは頭の休まるヒマなどないでしょう。

これは臨床上の実感とも一致しますし、自分の過去の経験とも大きくずれていません。
筋や結合組織の緊張を緩めるだけで様々な症状の緩和、改善につながるのは、自律神経側から説明するとより分かりやすいのかも知れません。

しかし作者が強調していることの1つに、こうした「心身のストレスに適応するのは、基本身の安全を確保するためであり、正しくない反応はない」と言うことです。
正しい反応により、古いシステムを使わざるを得なくなり、結果として状況への適応性を下げてしまう。
それは「とても扱いづらい(脳を含む)体」となってしまうことでもあり、なんとかすべき状況でもあるとしています。

治良においていくつか不可解な、あるいは上手く説明のつかない現象がありますが、この本を読んで幾分理解が進んだと感じています。
現在これを元に「古いストレスが引き起こした反応、およびその結果生じた制限による不調和状態」に対する治良を(自分を使って)実験中ですが、今のところ「いいかも」と感じています。
もう少し実験フェーズが進んで「安全に使える」と確信したら臨床での実用化を考えています。

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