夜尿症
夜尿症
いわゆる「おねしょ」という問題ですが、背景となるものはきわめて多岐にわたります。
心理的プレッシャーをはじめとした様々な生体ストレスが排尿障害の元となり得ます。
尿意>排尿の基本的なメカニズムは以下の通り。
まず膀胱の機械的な拡張をセンシングしているのが仙骨(骨盤)神経叢。
これは2~4仙骨神経からなる知覚神経群で、尿がたまることによって拡がる膀胱の状態を監視しています。
膀胱が拡がっているよ、という信号は脊髄を上行し、中脳に届けられます。
中脳にある排尿中枢にこの信号が届くと、主に三つの制御反応によって排尿が実行されます。
1.胸腰部にある交感神経節の抑制
普段この神経節の命令は内尿道括約筋という膀胱直下にある筋肉を緊張させていますが、交感神経節が抑制されることでこの戒めが解け、括約筋が緩んで排尿可能になります。
緊張しているとおしっこが出づらいのはこの神経節が興奮しっぱなしで抑制が取れないためです。
2.仙髄神経核の抑制
これも1と同じく括約筋の緊張を司っていますが、この神経核がコントロールしているのは外尿道括約筋という部分で、やはり抑制が弱まることで括約筋が緩み排尿させることができます。
3.仙骨神経叢の興奮
これは膀胱をセンシングしている神経と同じところからでているもので、膀胱の筋肉を緊張させて尿を押し出します。
子供の夜尿症の場合、最も頻度が高い原因の一つはこの仙骨神経叢の機能制限です。
特に就学前の子供は仙骨が完全には癒合しておらず、その柔らかさ故に機能している仙骨神経叢の機能が仙椎位置異常などで損なわれやすいのです。
たいていはこの問題を解決するとおさまることが多いようです。
さて問題は就学後あるいはそれ以上の年齢で夜尿が頻発するケースです。
夜間は元々腎機能や血液の循環が落ちてきて、濾過する血液も少なくなり結果として膀胱にたまる尿も少なくなります。
腎下垂などがあり横になると腎臓が持ち上がり尿をたくさん作り出すなどの状態があれば別ですが、普通はそれほど頻繁にトイレもいったりはしないものです。
また膀胱のセンシングは常に行っていますので、排尿臨界近くになると脳幹網様体が脳全体を賦活させ起きるようになっています。
同時に限界以上の状態は別として排尿を行うに当たって大脳の抑制を解除する必要がありますが、これは意志によって決定される、つまり大脳そのものがこれを行うことで達成されます。
これらのことを踏まえて神経腫瘍や腎機能の問題を除きかつ神経学的にみてみると
a.排尿中枢による交感神経/仙髄神経核の抑制が解除されやすい状態
b.同時に骨盤神経叢の緊張が誘導されやすい状態
c.脳幹網様体が何らかの原因でオンデマンドに機能せず膀胱満タンの状態でも起きることができない
d.子供場合と同じように骨盤神経叢が監視を十分に行えなくなっている状態
e.大脳の抑制信号が曖昧になりやすく、就寝時でも何かの刺激で勝手に「排尿せよ」とスイッチが入る場合
f.その他
などが夜尿症の原因として挙げることができます。
一つずつ考えてみます。
a.尿意を感じるほどたまってはいないけれど、抑えている括約筋が緩みやすく、容易に尿漏れを起こしてしまうケース。
夜間にこの問題が顕著になる場合、交感神経細胞レベルでの問題を抱えていることが多いようです。
脊髄側角から発するこの細胞群は、体性神経からのインパルスによっても興奮を起こし、血圧や血糖値にも強い影響を受けます。
これらの変数が一定範囲外に及ぶことが多い人は、交感神経系が振り回されやすくなります。
基礎疾患の有無を確認する必要が大いにあるパターンといえます。
b.膀胱が緊張しやすいのは割と珍しいケースですが、全くないというわけでもありません。
上記のaの反動で起きるケースが多く、私の経験した範囲で言うとaの治良をすると解決しました。
c.脳幹網様体の問題は複雑すぎて私の知識ではカバーできないことが多いのですが、副腎の機能障害とセットになっていることもあるらしく、そのチェックを行うよう教わったことがあります。
d.脱髄などは別として上行するはずの刺激が仙髄レベルでストップしているのは、神経が物理的(時には化学的)に侵襲を受けている場合が考えられます。
神経周膜は髄膜とは一体化していませんが、その内部に多数の血管や結合繊維を持ち、構造的機能的に髄膜の伸張絞厄の2次的な影響を受けやすくなっています。
また外傷(尻餅が多いです)になどによって仙骨自体の弾力性が損なわれる状態になると、内部に脳脊髄液の滞留状態を作り出すこともしばしばで、長期にわたると神経系の機能が制限を受けることになりかねません。
e.大脳半球の機能低下は割とよく起きることなのですが、たいていはその後のリカバリーが素早く、それほど問題になることはありません。
人によって差がありますが、ストレスはやはり大きな問題を引き起こしやすく、注意が必要かも知れません。
意外に目にするのは末梢からの情報エラーの蓄積で、小脳がらみで深部感覚の処理が安定しないケースです。
大脳基底核問題とも併せて複合的な症状を呈しやすく、時間がかかることが少なくありません。
f.神経学的な方向意外にももちろんたくさんの原因は考えられます。
果物や甘いもの、コーヒーなどの取り過ぎは体を冷やしますし、処方された薬が合わずに夜尿気味になったという例も聞いています。
また症状が症状だけになかなか言い出せず長期化してしまうこともよくあり、処置が後手後手に回りやすい問題ともいえます。
ちなみに大人でも疲れているとすることもありますが、頻回あるいは連続するようなら一度受診をお勧めいたします。