酸化現象は本当に「悪」なのか?
酸化現象は本当に「悪」なのか?
日経サイエンス2013.6月号に「覆る活性酸素悪玉説」という記事が載っていました。
以前このサイトでも活性酸素・非病因論についてという記事をご紹介しましたが、どうやらそれが現実味を帯びる形で語られ始めているらしいのです。
今月号の記事を読むと「様々な実験結果が”フリーラジカルという悪玉”が病気、老化の原因であるという説を否定している」ようなのです。
フリーラジカルというのは、生体分子から電子を引き抜き、分子構造/機能を保てなくしてしまう=酸化現象を引き起こす原因物質とされている、反応性の高い物質のことを指します。
スーパーオキシドや、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどが有名ですが、これらの物質は常に代謝反応の中で生成されており、完全に排除することはできません。
また免疫系の一部はこの活性酸素の仲間を使うことで、外敵から内部環境を保護しています。
要するに「ありすぎても困るが無くてももっと困る」のがこれらのラジカルだというのが、一般的な考え方だったわけです。
事実大量のラジカルを発生させる状況下、たとえば高レベルの放射線暴露など、は間違いなく危険なものですし、血管内で起きる酸化反応ゆえの問題というのも厳然としてあります。
以下抜粋要約してみます。
-----ここから-----
生物学者ジェムズの研究者人生は、2006年を境にひっくり返った。
中略
そのとき彼は、老化の主因は酸化による細胞傷害の蓄積だとする説を検証していた。
酸化というのは、専門的に説明すると、フリーラジカルなどの非常に反応性の高い化合物によって分子から電子が化学的に引き抜かれる課程をいう。
中略
ジェムズは線虫を遺伝子操作し、ある種の酵素群を作れないようにした。
これらの酵素はフリーラジカルを非活性化する天然の抗酸化物質として働く。
体内に抗酸化物質が無いため、思った通り線虫のフリーラジカルのレベルは急上昇し、線虫の体全体でおそらく有害な作用を持つと思われる酸化反応が起きた。
ところがジェムズの予想とは裏腹に、遺伝子を操作した線虫が早く死ぬことは無かった。
普通の線虫と同じくらいの期間生きたのだ。
----ここまで----
この後様々な実験結果が書き連ねられていますが、要するに我々が考えていたほどフリーラジカルの増加は生理的な傷害に影響していないようなのです。
それどころかフリーラジカルを非活性化する、いわゆる「抗酸化剤」、代表的なところでは各種ビタミン類などを摂取すると、その量によってはかえって寿命を縮めてしまう結果となる、ということが書いてあります。
分子単位でみると確かに問題山盛りな酸化現象ですが、生体という単位でみるとさほど問題にならないどころか、下手に是正すべきものではないというのはいかなる理由からなのでしょうか。
著者はその理由を以下のように推測しているようです。
-----再度抜粋ここから-----
フリーラジカルは老化とともに蓄積するが、必ずしも老化を引き起こすわけではないとすると、いったいどんな作用があるのか?これまでのところ、この疑問は決定的なデータよりも数々の仮説を生み出している。
「フリーラジカルは実際のところ、防衛機構の一部なのだ」とヘキミは断言する。
一部のケースでは、細胞損傷が起きたときに体の修復機構にシグナルを出す手段として、フリーラジカルが作られているのかもしれない。
この場合、フリーラジカルは老化によって引き起こされる損傷の結果であって、原因では無い。
しかし、フリーラジカルも大量に存在すれば同様に損傷を引き起こすのだろうとヘキミは言う。
小さな傷害は、体が寄り大きな障害に耐えるための助けになるとの一般的な理屈は、とくに目新しいものではない。
筋肉に徐々に強い負荷をかけていくと、これに反応して筋肉が強くなっていくのはこのためだ。
一方、たまにしか運動しない多くの人たちは、仕事で座りっぱなしの一週間を過ごしたあとで急に体に負担をかけると、ほぼ確実にふくらはぎや膝の裏の腱がつったり、もっと重大なけがをしたりすることを、身にしみて知っている。
コロラド大学ボールダー校の研究チームは2002年、線虫を短時間、熱や化学物質にさらしてフリーラジカルを産生させ、これらの環境的ストレスが、線虫がその後もっと大きな障害遭遇したときに生き延びる能力を高めることを示した。
また、この処置を受けた線虫の平均寿命は20%延びた。
ただし酸化的損傷の全体レベルのデータはとっておらず、こうした処置がどう影響したかはわかっていない。
-----再度抜粋ここまで-----
私たちは放置しておくと崩れゆく運命であるが、局所的な範囲においてフリーラジカルによって修復機転を呼び覚まされている。
また、それがより大きな視点、つまり生体全体としては結果的に「鍛えられたシステム」として有益に作用しうる、ということのようです。
それらの「必要な不愉快さ」は、度を超えてこれを除去しようとすると(統計上)結果的には生体としての活動期間を縮めてしまいかねいとも考えられる、らしいのです。
もっともまだ酸化還元現象がもたらす影響については、十分にわかっていないことが多いので、慎重に推移を見守る必要があることはいうまでもありません。
私の個人的な意見ですが、単純な加減算だけではわからない深遠さが、やはり私たちには備わっているようです。
そしてもしかするとそれこそが私たちの生命現象そのものを左右し、いやそれ以上の「支配」を行っているのかもしれません。
抗酸化作用についていろいろ読みあさっていた私にはかなりショッキングな記事です。
が同時に生体の基本的なスタンスについて、疑問に思っていた小さなエリアに少しだけ光が当たった感じでもあります。
治良をどの方向へ向けて構築すべきか。
また少しはっきりしたような気がします。