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脳が混乱する理由その1

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脳が混乱する理由その1

神経のトーンを調える。
正確な文言は忘れましたが、カイロプラクティックの始祖であるD.Dパーマーという人は、その天才性をもって手技療法における真理の一つを喝破していました。
ではこれを凡人である私がどのように理解すべきなのでしょうか。

脳はいかに治癒をもたらすか
と言う本があります。
副題は「神経可塑性研究の最前線」。
可塑性というのは本来「個体に力を加え変形した後、応力を取り去っても元に戻らない性質」を指します。
例えばですが粘土はへこますと自分で復元したりはしないので“可塑性を持つ”と言うことが出来ます。
神経系においてこの言葉が持つ意味は、脳や脊髄において末端からの刺激が続いたりすることなどによって本来そこにはない構造や機能的な変化をもたらすことです。

例を挙げて考えてみます。
上記の本の中にもありますが、私たちはたくさんの動作を無意識に行っています。
歩く。
コップをもって水を飲む。
キーボードをブラインドタッチで打つ。
どれもこれも慣れればいちいち考えなくとも実行することが(大抵の人は)可能です。
こういった「動作のパッケージ化」は、主に大脳基底核という部分においてその学習がなされ、似たようなシチュエーションに出くわしたとき、ほとんど意識せずにアクションが起きるようになっています。
ところがこの大脳基底核、正確にはその一部である中脳黒質という部位で分泌されるドーパミンが不足し、運動制御をはじめとした機能不全に陥る「パーキンソン病」という病があります。
これが発症するとパッケージ化した運動ほど行いづらくなり、統合的かつ適切な筋緊張を維持できなくなったりします。
この本の中でジョン・ペッパー(以下ペッパー)という発症者を観察してきた著者は、その回復あるいは社会復帰への課程を書いています。
ペッパーは「自動化されてきた動作を一つ一つ意識することによって再び動きを取り戻した」ようで、しかしそれは同時に今まで使ったことのない形で神経核やシステムに負荷を強いることにもなります。
本稿ではもちろんその努力や復帰にケチをつけたいわけではありません。
表題にある「脳の混乱の理由」を考えてみるとき、この意識(当該領域0.5秒以上の発火反応群)を生じさせることによってナチュラルに機能していたサーキットとは別のサーキットを確立できる反面、脳はそのリソースそしてエネルギーを余計に使うという事実が重要になってきます。

では意識が生じやすい状況とはどんなものなのか。
一番に挙げられるのはやはり「ストレス」と称される心理的な負荷でしょう。
実行あるいは思索において障壁が存在し、生物の大原則である“生存確率の向上/確保”を妨げうる状況。
これらは実行に移すための手順も内分では確立されておらず、結果に対する見通しも立たないため、その解決払拭にむけて一つ一つ「注意」を払いながらすすめてゆくほかありません。
これは著しく脳(≒心理)に負荷をかける原因となり得ますが、こういった制御シーケンスがおろそかになった結果、負荷をかけられた筋や筋膜にとうてい効率のよい使われ方を望むことは出来ません。
一例ですが脳内リソースの消費は、思考よりになった皮質による筋へのプリロードをいつもより高めるかもしれません。
逆にプリロードがいつもより低ければ、いざというときのリアクションに遅れが生じるでしょう。
つまりは適切な緊張や応答性が維持しづらく、そのフィードバックがまたシステムへの負荷となってゆきます。
その間、基本的には交感神経優位状態であり、エネルギー回収/回復のために働く副交感神経は制限された状態となります。
神経細胞は高度な制御を受け持つ反面、とても疲労しやすいことを思い出して下さい。

また上記の不適切な筋緊張、応答遅れの問題は、常にその情報を受け取る皮質感覚野に修正要求を出し続けます。
これは交感神経系の興奮及び血管の収縮を伴う反応で、末端のポリモーダルセンサーの興奮によって痛覚として認識されやすくなります。
それは末端が何らかの処置で落ち着いても、必要のないシナプス発火を起しやすくしてしまう「神経可塑性」を中枢にもたらします。
炎症も変形もないのに痛みがあるケースは、多くはこのようなメカニズムによって引き起こされます。
これらの痛みは大きくは姿勢や肢位の偏向、細かくみてゆけば不必要なレベルの緊張や弛緩を組織にもたらし、この異常な情報を脳の当該領域に焼き付けてゆきます。
こういった負のサイクルがサーキットを強化し、痛みや不快感を抱えた本人は「どうなっているんだ?」と悩み、これがまた脳内のノイズや警報系の興奮を惹起させる背景となります。

かように脳にとって意識反応を集中させてシナプスをより多く発火させざるを得ない状況は必ずしも不利益ばかりではありませんが、可塑性という状況に対応すべく起きる必然的な反応を通してときに混乱を招き、日常生活においても支障を来す可能性を高めることになります。
これらはいったん固定ししてしまうと容易にはネットワークを解除出来ません。
より効率的で安定した運用状態への回帰をもたらす適切な刺激を体は欲することになりますが、固定した脳内状況は、体に回復をもたらすはずの適切な動きを命令しようとはしません。
いったん確立してしまった「可塑性による機能変更」は、こう言ったとてもやっかいな一面を抱えています。
これらを打破する方法はいくつも研究が成されています。
適切なリハビリテーションを含む脳への再教育もその一つでしょう。
心理セラピストによる誘導も有益な方法として認知されつつあります。

可塑性及び興奮の拡大という基本性質によって書き換えられたサーキットおよび脳マップは、大半が末端からの入力を素直に拾い上げられる状態にはなく、特定の状況下においてストレートな入力を無視あるいは凌駕する形で、偏向した反応を見せるようになります。
脳はこういった「周囲の現実と合わない処理」を常にしますが、これが度を超すと筋や筋膜といった末端運動器の緊張を伴う問題を作り出します。
所謂トリガーポイント問題というやつですが、これはまた次の機会に書いてみます。
いずれにしてもこうやって周囲の状況に適応しようと奮闘する脳は、時として“絶対必要”以外の反応による不快感を出現させたりもしながら、必死につじつま合わせを行い続けます。
当然限度というものがありますから、少しずつ少しずつ反応の柔軟性を失いながら、ある日突然ストライキに突入してしまいます。
脳はこのように日々面倒を避けつつ、混乱をため込む性質があるため、本当にやっかいなことを自覚できるのは問題が大きくなってからだったりします。

ただミトコンドリアにおけるエネルギー創出の機能を失っていない(疲弊していない)段階であれば、適切な刺激をあたえることで神経細胞やグリア細胞がより全体にとって最適化された状態に復元することは可能です。
はっきりしたメカニズムは不明ですが、治良における「全体的でありながらごく微少な刺激」はそのようにして回復をサポートしているのでは無いか。
ここ最近はそのように考えています。

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