副交感神経優位状態
副交感神経優位状態
副交感神経優位状態
自律神経についての誤解で少し書いたのですが、内臓を含めた意識の及ばない働き全般を最適化してくれているのは、やはり自律神経が主役になるかと考えます。
以前同じような方法で施術を行っている人が「最近はリラックスが過ぎて体調を崩す人が増えている」と話していました。
私たちが修行中(約30年前です)は、とにかく「緊張を緩めなさい」と教わりました。
それは自律神経で言えば「交感神経優位状態の解除」を目的としていたわけです。
もちろん今でもこのタイプはたくさん目にするのですが、最近は何をどうしても緊張を維持できない状態を抱える人も少なくなく、少し前のイメージで治良を行おうとすると戸惑うこともしばしばです。
緩めるのは何とかなっても、適正な状態に緊張させるよう全体を誘導する方法というのは(手技療法の世界では)あまり聞きません。
正確にはないわけではありませんが、最適化の意味を考えずにアプローチするとどうしても「緩める」ことが目的となってしまいます。
単に私が不勉強なだけなのかも知れませんが、施術がわからするとイメージが難しいのは確かなようです。
アレルギー発生のメカニズムについて
少し話は飛びますが、昨今のアレルギーの急激な増加について書いてみたいと思います。
医学的に考えるならばアレルギーは「免疫グロブリン値の上昇を伴う身体症状が出るもの」となります。
体を守る免疫系と呼ばれるシステムにおいて、その実働部隊を「白血球」と総称します。
ただしその内訳はやや専門性別に分かれ、貪食細胞とよばれる単球や好中球などは大きめの分子(細菌など)をその内部に取り込むようにして処理します。
これらはあまり小さい分子には対応しきれず、ウィルスや異種タンパクと言った小分子は主にリンパ球という組織が排除に当たります。
このリンパ球は、接着能に優れたタンパク質を放出しますが、これを免疫グロブリンと称します。
いくつかタイプがありますが、主に測定されるのEと呼ばれるもので、これが上昇する物質がその人にとってのアレルゲンとなります。
この免疫グロブリンがマスト細胞表面にあるレセプターにアレルゲンとともに結合します。
これが血管拡張作用をはじめとする炎症反応を加速させ、アレルギー症状となって知覚されます。
さて免疫システムは以前にも書いたように自律神経系と密接な連携を行いながら、反応の制御を行っています。
新潟大学の安保教授によればそれは「交感神経優位=貪食細胞増加」「副交感神経優位=リンパ球増加」という図式が確立されていて、アレルギー反応の主役であるリンパ球増加は、否応なく副交感神経系優位を招くと言うことになります。
全身的に起きる血管拡張反応とこれに伴う急激な血圧低下を主とした「アナフィラキシーショック」は、自律神経側からみるならまごう事なき副交感神経系過剰状態であり、「だるい」「呼吸が遅い」などの自覚症状もそのことを示しています。
では昨今感じる「過剰なリラックス状態を抱えた人」とアレルギー症状の増加は関係ありとみるべきなのでしょうか。
個人的には「関係あり」とみるのが妥当なように思われます。
ならばその背景はいかなるものと推測されるのでしょうか。
食事を含む外的環境因子についてははるかに詳しいサイトが多数存在しているようなので、この稿では少し別の切り口で考察してみようと思います。
では副交感神経系優位というのはどのような状態によって誘導されうるのでしょうか。
私のわかる範囲でかくならばそれは
a.交感神経系の緊張が減退するとき
b.消化管をはじめとする副交感神経による機能亢進が起きる器官が過剰に働き続けるとき
などが考えられます。
とくにaの状態は次に様なときにもたらされると考えられます。
イ)bによって交感神経系が強制的に抑制されたとき
ロ)交感神経系の緊張状態の経験が少なく、アドレナリンに対する耐性が低いとき(交感神経節前繊維はノルアドレナリン作動性)
ハ)上記ロがもたらす支援システム追従性の未熟さ
ニ)その他
また安保理論によるならば、細菌感染などによる単球をはじめとする貪食細胞の活性化は必然的に交感神経亢進状態を惹起しますが、この事実は「細菌感染頻度の低下が交感神経活性化の機会を減らす」という結論を導き出します。
極端な清潔志向の弊害と言ったら言い過ぎでしょうか。
これに食生活をはじめとする免疫システムの混乱が常態化した状況がプラスされたとき
・体内における未消化/異種タンパクの増加
・これによるリンパ球の増加が貪食細胞を抑制し、結果的に副交感神経系優位を維持する
・過剰なリラックス状態による「だるさ、やる気の低下」が運動など刺激を得る機会を放棄させる
・このサイクル中に発生するウィルスに対する過剰反応がまた免疫システムを偏向させる
といったループが形成され、外的刺激の排除と言った現代の方向性と相まって交感神経系の力を低下させてゆくのではないかとみています。
本来私たちの体に必要な「メリハリ/リズム」が、よく考えてみると少なくなる方へ向かっている現代社会あるいは文明の流れはそれを止めることは「本質的に」無理だと考えます。
それは「可能な限り生存確率を上げる=感染症や外敵におびえることなく、食べ物と寝るところを安定的に確保できるようシステムを構築する」という至上命題に突き動かされているからですが、実はこの生物としての緊急課題の(一応の)達成が次の問題を生むことは、このサイトでもたびたび指摘してきました。
とはいうものの「文明の発展をとめて昔に戻れ」という話ではもちろんありません。
そんなのは絶対無理ですし、私個人も今ある快適さを訳のわからない理論で手放すことはしたくありません。
その取り扱い方は別として、原則的に我々人間という生き物が脳という臓器に支配されているとわたしは考えています。
そしてその脳という臓器は常に内的な活動を必要としており、通常それを確立させるためには絶えざる外的な刺激(薬物や心躍るイベントなど、要するに興奮や達成感を感じる何か)による伝達物質(主にノルアドレナリンやドーパミン)の分泌と、結果的にもたらされるシステムの稼働が必須となります。
緊急性のある課題克服が目の前にあるときには、私たちはその達成度に一喜一憂します。
つまり現状に対する興奮が脳という臓器の活動低下を防いでいるわけです。
脳は退屈を嫌う臓器なので、知らず知らずのうちにこれが「生きがい」になっていることは皆様もご経験があることかと思います。
そしてこれらは生存をかけた生理的な負荷と直結しているので、あまり他のことを考える余裕がない状況と言うこともいえます。
ちなみにそのような状況下においては通常交感神経系が緊張し、一転して栄養吸収時や睡眠時には副交感神経優位にして次の闘争に備えようとします。
いわば体がメリハリなしでは持たないゆえに、何もしなくてもそういう反応を保持しようとするわけです。
そして現代日本ですが、餓死ホームレスなどの報道がなされ、「食べる眠る」が安定的に確保されていない現実があることを思い知らされます。
一方法は我々に「最低限の健康で文化的な生活」を保証し、条件さえ整えばその保証を実践してくれるシステムを備えています。
多くの、おそらくは日本人の半数以上がこの恩恵や経済的な豊かさの元、日々の糧や住居の確保ができるようになっていると推測されます。
そしてそれら生物としての特権ともいえる状況を手に入れ、ふと気がつくと「なんか退屈だな・・・」となっているのが、今多くの人が抱えている行きづらさの背景の一つなのではないか、と私は考えています。
しかもストレートに「退屈」と思えるならまだましで、多くは「なんだかわからないけど気持ちが奮い立たないし、将来が見えない」という、心の不定愁訴と言って良いような状態を抱えて煩悶しているのではないでしょうか。
ただし交感神経優位が行過ぎて起きた、こうしたある種の鬱状態は除いて考えなければならないのは言うまでもありません。
そして最初に戻りますが、このさしあたっての緊急性が無い状態というのは、別の見方をすると恒常的な副交感神経優位状態といえるわけです。
リラックスが悪い、ではもちろんありません。
リラックスが続くことによるメリハリのなさが、実は原始時代とは別のリスクを私たち人間に突きつける原因になり得る、というお話なのです。
何度も書いて恐縮ですが、便利さを捨てることができない我々がとりうる選択肢というのは実はそれほど多くはありません。
そしてそれを生涯にわたって保つための方策はやはり「規則正しい日常を送る」しか思いつきません。
毎日仕事あるいは家事と言った、しなくてはいけないことを自分で作り出し、夜はその日のうちに眠くなるよう昼間のうちに体を適度に動かしておく。
仕事や家事が楽しい=脳を適度に興奮させ達成感を感じられるよう、必ず工夫を凝らしながら磨き上げてゆく。
不規則な出来事も人生の一部と思い対応する。
それらができるよう自分を見つめ直すことを厭わない。
子供のアレルギーにおいては過剰な清潔志向を見直してみるのもよいかも知れません。
適度に免疫を刺激する状況に暴露させ、システムの偏向を防ぐことが肝要なのかな、と最近はよく考えます。
絶え間ない内外からの変動にさらされることで私たちの体や心は追従性を発揮するようできているように私には思えます。
逆に言えば同じような刺激のみで構成された日常は、緩やかに私たちの体から当たり前の適応性を奪い去ると言うことになります。
消耗や臓器の疲弊を伴うのでなければ、ある程度緊張する時間を作ることが実は必要だろうとみています。
しかし極端な刺激の連続は、必ずあとでつけを払うことになります。
それもまた人生だとは思いますが、過剰なリラックスと過剰な刺激の注入の繰り返しはいずれ破綻を招くことは明白です。
怪しげ薬物や判断を失わせる狂乱に心身を任すのは、一時的に副交感神経を抑制してくれますが、その代償は想像以上に大きいと認識すべきです。
副交感神経が優位に働ける状況にある方は、是非その利点である「ゆっくりと考え尽くす」ことを実践してみて下さい。