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インスリン2

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インスリン2

毎度のことながら私の勉強のための稿です。

まずは糖代謝についての復習を。

基本的に(あくまで基本的にですが)私たちの体は糖という形でしかエネルギーを利用することができません。
これは糖→解糖系→(ほとんどが)クエン酸回路/電子伝達系によってATPを生み出します。
とても不安定な物質で、それ故にすぐにエネルギーに変換され、私たちの絶え間ない活動を支えています。

ということは糖という物質もやはり不安定であり、酸素というこれまた不安定な触媒によって爆発的ともいえるエネルギー変換が行われています。

当然、反応が激しく酸化を促進する糖がいつまでも血管内に大量にうろつくこと(血糖値上昇)は生体にとって好ましい事態ではありません。
何より各組織が必要な糖を受け取れないのは、臓器によっては極めて危険な状態を容易に招くことになります。

ではその糖をどこがどのように利用しているのかを見てみます。
口から入った食べ物は胃や小腸によって消化吸収が行われ、糖はグルコース(もっとも単純な糖類)の形で肝臓に届けられます。
まず肝臓で適正な量の糖が血管内に放出されますが、あまりに多すぎる場合は

・いったん肝臓内にとどめておく:グリコーゲンという物質に変換
・アセチルCoAによる脂肪酸への変換

という働きによって「余分な糖は血管へ流さないぞ」というフィードフォワード調節が行われます。
また血中の糖が少なくなると、ため込んだグリコーゲンを糖に変換し放出したり、たんぱく質を糖に変換(糖新生)したりして血糖値の維持に努めます。
肝臓は血糖値上昇(あるいはその前段階)におけるインスリン分泌を感知し、即座に糖新生をストップします。
しかし肝機能が不安定になると糖新生をコントロールできなくなり、食事による血糖値上昇が起きてもそのまま糖新生を継続します。
肝性糖尿病はこのようにして発症します。

さて次に最大の糖消費先である骨格筋を見てみます。
インスリンがレセプターに作用すると、糖の輸送体であるGLUT4というたんぱく質が浮上して、糖をミトコンドリアまで運びます。
ただし骨格筋はその持続的な活動(運動など)によってAMPキナーゼという酵素が活性化し、これによるインスリンなしでの糖取り込みが行われます。
運動が血糖値改善に役立つ理由はここにあります。
また血糖値が上昇傾向にある人の骨格筋の糖取り込み状態は、大半のケースにおいて悪化していて、骨格筋の体積やその活性状態(筋内ミトコンドリアの効率)が私たちの糖代謝に重要であることが分かっています。
ちなみに骨格筋にも糖は貯蔵されますが、緊急用として使われることが多く、全力で運動する(無酸素運動)と大体10秒前後しか持ちません。
その内部ではクレアチンリン酸という形で蓄えられ、比較的安定的なアデノシン二リン酸(ADP)とともに出番を待っています。
酸素を取り込んでエネルギーを生み出す(有酸素反応)暇がない(無酸素反応)時にADPにリン酸を渡し、ATPを合成しエネルギーとします。
使用済みのクレアチンはクレアチニンといい、腎臓でろ過されて体外に放出されますが、腎機能が著しく落ちると血中値が、筋量が多く高使用状態では尿中値とともに血中値が上がってきます(後者は正常です)。

三つめは糖要求性の高い部位における取り込みです。
脳血管や網膜、腎臓などがそれに当たりますが、これらはインスリン非依存性に糖を取り込む性質があり、GLUT1という輸送体がたくさん存在することで可能になっています。
これらの部位の血管で血糖値が上がると、血管膨張→GLUT1活性化により糖が取り込まれます。
しかし必要以上に高い状況が続きますと、血管膨張が維持されて、血管が損傷を受けやすくなります。
糖尿病において脳血管障害や眼底出血が起きやすくなるのは、そのような理由があります。

さて前置きが長くなりました。
表題のインスリンですが、これは言うまでもなく唯一の血糖降下(あるいは取り込み)ホルモンであり、これが十分に分泌されない、あるいは抵抗性が生じて働きが低下すると、大変な問題になることは私が言うまでもないことであります。
インスリン抵抗性とは、細胞内部の異常によってインスリンがレセプターに結合できなくなることを言います。
レセプターが高濃度の遊離脂肪酸によって変質してしまうことが原因と考えられていますが、まだ研究途中のようです。

インスリンに限りませんが、内分泌系全般においては本当に少ない量しか分泌されないようになっていて、当然その生産分泌機構も外分泌系に比べると脆弱といっていいほどの規模しかありません。
特にストレス時は抗インスリンと呼ばれるグルカゴン、グルココルチコイド、成長ホルモン、アドレナリンが急増し、これらを収束させるべくインスリンも大量に分泌されますが、長引けば多勢に無勢であっという間にインスリン側だけが疲弊します。
また、このインスリンが相対的に低下した状態では、筋肉にその構成材料であるアミノ酸を取り込ませる効率が低下し、エネルギー消費先がやせてゆく結果にもなり、結果高血糖状態が頻発しやすくなります(ただし即座にではなく、徐々に起きる反応です)。
糖質制限においては糖新生を頼りに糖質の摂取割合を下げますが、当然インスリンの分泌も(仕方のない半面)低レベルで推移します。
結果としての耐糖性低下とともに筋組織の疲弊が問題になる理由がそこにあります。
長期にわたる糖の制限については、よくよく考えてから行うべきであるとの指摘は、あながち間違いではないのです。

私も糖質制限というほどではないにしても、若干糖質を減らすことによって体重も体調も安定したことを実感しました。
なのでこの考えに全面的に反対するものではありません。
一方、上記のような生化学的な事実を無視、あるいは軽んじて「糖質は悪!」と叫んでいる人を見るとどうにもやりきれない気持ちになります。
無理なダイエットによって筋肉までやせてしまい、以来体調が元に戻らず苦しんでいる人たちを見るとなおさらです。
どの方法が最適解なのかはもちろん個人によって違います。
私に今言えるのは「あまり極端に走る、あるいは一つの理論をうのみにして突っ走るのはハイリスクである」ということです。

猛進(盲信)する前に是非ご一考を。

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